メスクジャクの選択イラスト メスはオスをえらぶ (5)

どうしてメスはハデ好み?そのナゾとき

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ダーウィンをなやませたクジャク

右の写真のインドクジャク(Pavo cristatus)をごらんください。オスのしっぽにある長い長い羽根(上尾筒といいます)は、1メートルを優にこえます。こんな羽根では、ふだんの生活がたいへんそうです。自然淘汰の理論を発表したあと、まだ性淘汰の理論をまとめていなかったダーウィンは、「クジャクを見ると気分がわるくなる」と手紙に書くほど、このハデさには頭をなやませていたようです。

ほかにも、不必要なまでにオスがハデすぎる動物はたくさんいます。どうしてメスはこんなにハデ好みなのでしょうか? 魚の婚姻色のように、こんなハデさでもオスの良さをあらわすものなのでしょうか?

動物一般における「オスのハデさ・メスのハデ好み」が進化したしくみについては、20世紀にはいって多くの生物学者がそのナゾときに挑戦しています。ここでは、代表的な2つの仮説「ハンディキャップ仮説」と「ランナウェイ仮説」をご紹介しましょう。

インドクジャクのオスとメス
「インドクジャクのオス(左)とメス(右)」
(静岡県・伊豆シャボテン公園)ZOOM
原産分布はインド、パキスタン東部、バングラデシュ西部、ネパール南部、スリランカです。
撮影:高橋麻理子

ハンディキャップ仮説

あなたはサッカーにくわしくない人なのですが、日本代表選手をえらぶよう、なぜかジーコにたのまれてしまったとします。こまったあなたはしかたなく、フィールドにでてピッチの選手をながめます。そこに、ボールさばきの腕前が似たようなA選手とB選手がいます。あなたにはその技術の差はわからないのですが、ふとB選手の手もとをみると、鉄のおもりをぶらさげながらプレーしてるではありませんか! 同じようなボールさばきなら、A選手よりもB選手の方がスゴい選手に見えてきませんか? おもりというハンディキャップを持ちながらも同じようにプレーする姿が、あなたをスゴいと思わせるわけです。

ハンディキャップ仮説とは、クジャクの上尾筒がここでいうおもり、つまりハンディキャップなのだという考えかたです。つまり、同じくらい元気にしているオスなら、上尾筒が長いオスほどスゴいオス、ということになります。つまり、メスはハンディキャップの大きさをめやすにオスを品定めしている、ということになります。「ハデさ」とはすなわちハンディキャップである、というわけです。

ハンディキャップ仮説のしくみがはたらくためには、メスにとってオスを品定めする方法がほかにはないということ、ほんとうにスゴいオスでないと大きいハンディキャップをもつことができない(つまり、ハンディキャップは見せかけではない)こと、などが条件になります。

最近の研究では、オスの良さのめやすとして寄生虫(きせいちゅう)や病気の感染(かんせん)に対する抵抗性の強さが重要だと考えられており、オスにみられるハデさは直接的なハンディキャップではなく、そのような抵抗力をしめしているという説が有力です。

(このサッカー選手の例えは、「生き物の進化ゲーム 進化生態学最前線:生物の不思議を解く」(酒井聡樹・高田壮則・近 雅博著、1999年、共立出版)を参考にしたものです。)

ハンディキャップ仮説の説明図その1
ハンディキャップ仮説の説明図その2

ランナウェイ仮説

この仮説は、メスはたまたま長い上尾筒をもつオスをえらんでいるだけだ、という考え方です。ハンディキャップ仮説とはちがって、上尾筒の長さはオスの良し悪しを示すものではない、というのです。意味がないのに長くなるように進化することはあるのでしょうか? そのしくみは次のとおりです。

ここに、上尾筒の短いオスと長いオスがいるとします。なんらかの理由で、「短いオス好み」のメスよりも、「長いオス好み」のメスの方が数が多い(下の図では2倍多いとする)とします。すると、長いオスは短いオスにくらべて、たくさんのメスとつがい、たくさんの息子・娘をのこすことができます。この息子は父親から遺伝(いでん)した長い上尾筒をもっているはずですが、同時に母親から「長いオス好み」という好みも受けついでいます(ただし、息子はオスなので、この好みが表にでることはありません)。

つづいて、長い上尾筒をもつ息子は、やはり「長いオス好み」のメスにモテて、同じように「長い上尾筒をもつ・長いオス好み」という性質を受けついだ孫息子・孫娘をのこすことになります。

メスの方はメスどうしであらそうことはないため、「長いオス好み」のメスも「短いオス好み」のメスも、両方同じように息子・娘をのこせるはずです。したがって、息子の代では「短いオス好み」:「長いオス好み」のメスの比は変わりません。しかし、孫の代になると、「長いオス好み」の性質を受けついだオスを通じて、「長いオス好み」のメスが増えることがわかります。

「『長いオス好み』のメスの方が多い」という最初の条件としては、長い上尾筒をもつオスは良いオスだ、という関係がおそらく必要になります。しかし、その長さがメスの好みによってどんどん大きく加速されるというのが、ランナウェイ仮説の考え方です。

ランナウェイ仮説の説明図

さて、クジャクの上尾筒の役目は一体・・・?

さて、ここでは「インドクジャクのメスは上尾筒の大きさ(ハデさ)でオスをえらんでいる」という前提で、それを例として2つの仮説を説明しました。確かに、上尾筒の目玉模様が多いオスほどメスにモテる、という研究例はあります。しかし、別のグループの調査では目玉模様の数は関係ない、というデータもあるようです。

実際に、右の映像でオスのプロポーズの一部始終を見てみると、上尾筒の他に、ネコのような鳴き声、レンガ色の風切羽のディスプレイも関係がありそうです。クジャクの上尾筒の進化のシナリオや、メスが何を目安に選んでいるのかは、実はまだよくわかっていません。

さあ、映像をごらんになってください。あなたなら、どう考えますか?

インドクジャクのプロポーズ
映像:「インドクジャクのプロポーズ」
撮影地:静岡県・伊豆シャボテン公園
撮影者:高橋麻理子
画像をクリックすると再生します(1分56秒・音声あり・21.4MB)
(映像中のキャプション(1分14秒-20秒付近)で「その後、尾羽を振ってみせます。」とありますが、これは「風切羽」の間違いです。おわびして訂正します。)


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特別展「どうぶつたちのプロポーズ大作戦!!」電子図録
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