福井県南条山地における放散虫化石産地ノート

−その1− 蠅帽子川地区;熊河川地区

Note of occurrence of radiolarian fossils in the Nanjo Massif, Fukui Prefecture, central Japan

No.1 Haiboushi-gawa Area and Kumanoko-gawa Area

はじめに

 本邦の中・古生界の放散虫化石の研究は、1970年代後半に本格的に始まった(Ichikawa and Yao,,1976; Nakaseko and Nishimura, 1979など)。福井県南条山地においては、1980年に最初の中生代放散虫化石(伊藤・松田、1980)が報告されて以来、猛烈な勢いで放散虫化石の調査・研究が進展した。199612月現在では、現地調査および試料採集した場所は約550地点、撮影された電子顕微鏡写真は4万枚を超えている。これらのデータの中にはすでに論文として公表されたものもある(服部・吉村、1982;吉村ら、1982;服部、19871989;服部・阪本、1989など)が、まだ未公表のデータも多い。その理由の一つには、実際に放散虫化石抽出作業を始めてみると、同山地のあまりにも広い範囲において、色々な堆積岩相から、非常に多くの中生代放散虫が産出するという状況があげられる。例えば最近筆者の一人田賀が、南条山地では今まではあまり注目されなかった、チャートに含まれる放散虫化石を特に精力的に抽出・解析した。その結果、従来無化石とされていたチャートのいくつかからも放散虫化石を得ることができた。また、南条山地の放散虫化石の抽出・解析が開始された1980年代初期には、三畳紀およびジュラ紀前期〜中期の放散虫化石の研究も始まったばかりで、同山地で発見された放散虫化石に関しては、まだ未命名の化石が多く、解析作業も非常に手間取った。しかし、80年代後半からは三畳紀およびジュラ紀前期〜中期の放散虫化石に関しても、研究が飛躍的に進み、それらの放散虫化石について記載された論文が多く公刊され、化石解析に関する情報が多数手にはいるようになった。このような状況下、南条山地全体における放散虫化石の産出状況を把握する目的で、未公表の放散虫化石の写真を地域ごとに公開する。これらのデータが、今後の調査・研究の参考資料となれば幸いである。

 これらの放散虫化石の研究には、筆者らの他に、福井大学教育学部地学教室の服部 勇先生、藤井純子氏をはじめ、江尻一位氏、服部篤彦氏、川北(現性 東野)貴代美氏、小鍛冶 優氏、小林義尚氏、中屋義雄氏、早見敏幸氏、斉藤正直氏、阪本直樹氏、高村祐司氏らが、服部先生の指導により、主に地学教室の卒業研究として集められたデータであることを付記する。


T.蠅帽子地区(図1、図版1,2,3)

大野市蠅帽子川沿いおよびその西を流れる小沢川沿いの赤色珪質頁岩および赤色層状チャートより得られた放散虫化石の電子顕微鏡写真を図版1、2、3に示す。図版1、2に示した放散虫化石は三畳紀を、図版3に示したものは前期ジュラ紀を示す。

試料採取地点地形図「能郷白山」
蝿帽子川沿いのルートマップ

図1(左):蠅帽子地区における試料採取地点/国土地理院発行2万5千分の1地形図「能郷白山」を使用

図1(右):蠅帽子川沿いのルートマップ 服部(1985)より。TはIH82071804、TはIH82071806の試料採取地点を示す。


図版1

蠅帽子川地区より得られた放散虫化石の電子顕微鏡写真(スケールは0.1?)
化石名/産地/地点番号(F)/試料番号の順で記す。

蝿帽子川地区より得られた放散虫化石写真1

:Pramesosaturnalis sp. /蠅帽子川/F535TG95101215

B:Paronaella? sp. /小沢川/FXMU95060601

C:Pseudostylosphaera japonica (Nakaseko and Nishimura) /蠅帽子川/F534TG95101205

D:Pseudostylosphaera sp. /小沢川/FXMU95060601

E:Pseudostylosphaera sp. /蠅帽子川/F535TG95101215

F:? Cryptostephanidium japonicum Nakaseko and Nishimura/蠅帽子川/F534TG95101206

G:Cryptostephanidium japonicum Nakaseko and Nishimura/蠅帽子川/F534TG95101206

H:Eptingium manfredi Dumitrica/蠅帽子川/F534TG95101207

I:Eptingium japonicum Nakaseko and Nishimura/蠅帽子川/F534TG95101215

G:Eptingium cf. E. manfredi Dumitrica/蠅帽子川/F535TG95101201

K:? Sarla sp. /蠅帽子川/F535TG95101215

L:Staurosphaera ? sp. /蠅帽子川/F534TG95101206

M:Tiborella cf. T. florida (Nakaseko and Nishimura) /蠅帽子川/F534TG95101204

 


図版2
蠅帽子川地区より得られた放散虫化石の電子顕微鏡写真(スケールは0.1?)
化石名/産地/地点番号(F)/試料番号の順で記す。

蝿帽子川地区より得られた放散虫化石の写真2

A:riassocampe deweveri (Nakaseko and Nishimura)/蠅帽子川/F534TG95101207

B:Triassocampe deweveri (Nakaseko and Nishimura)/小沢川/FXMU95060601

C:Triassocampe myterocorys Sugiyama/蠅帽子川/F534TG95101201

D:Triassocampe cf. T. coronata Sugiyama /蠅帽子川/F534TG95101209

E:Triassocampe sp. /小沢川/FXMU95060601

F:Triassocampe sp. (Nakaseko and Nishimura) /蠅帽子川/F534TG95101208

G:? Triassocampe sp. /蠅帽子川/F534TG95101208

H:? Triassocampe sp. /小沢川/FXMU95060601

I:Yeharaia sp. /蠅帽子川/F254IH82071804F0028

G:Yeharaia ? sp. /蠅帽子川/F253IH82071804F0026

K:Yeharaia ? sp. /蠅帽子川/F534TG95101206

L:Yeharaia ? sp. /蠅帽子川/F534TG95101206

 


3

蠅帽子川地区より得られた放散虫化石の電子顕微鏡写真(スケールは0.1?)
化石名/産地/地点番号(F)/試料番号/フィルム番号(すでに番号が付けられたもののみ)の順で記す。

蝿帽子川地区より得られた放散虫化石写真

A:Mesosaturnalis sp. /蠅帽子川/F536TG95101224

B:Homeoparinaella sp. /蠅帽子川/F536TG95101221

C:Pantanellium sp. /蠅帽子川/F536TG95101222

D:Trillus sp. /蠅帽子川/F253IH8207180623356

E:Eucyrtidiellum sp. aff. E. unumaense Yao/蠅帽子川/F253IH82071806F0049

F:Eucyrtidiellum sp. 蠅帽子川/F253IH82071806F0045

G:Poulpus sp. 蠅帽子川/F253IH8207180623358

H:? Tricolocapsa sp. 蠅帽子川/F253IH82071806F0044

I:Archicapsa sp. 蠅帽子川/F253IH8207180623348

J:Archaeodictyomitra sp. 蠅帽子川/F253IH82071806F0032

K:Canoptum(?) sp. 蠅帽子川/F253IH82071806F0047

L:Droltus(?) sp. 蠅帽子川/F253IH82071806F0058

MDroltus(?) sp蠅帽子川/F253IH82071806F0051

NCanoptum(?) sp. 蠅帽子川/F536TG95101221

O? Parahsuum sp. 蠅帽子川/F536TG95101222

P? Parahsuum sp. 蠅帽子川/F536TG95101229



 U.熊河川地区(図版4)

大野市熊河川沿いに分布する赤色珪質頁岩より得られた放散虫化石の電子顕微鏡写真を図版4に示す。これらの放散虫化石は保存状態はよくないが、?Canoptum sp. などを含み、三畳紀末期〜ジュラ紀前期を示すと思われる。

図版4熊河川地区での試料採取地点と熊河川地区より得られた放散虫化石写真

(上)熊河川地区における試料採取地点/国土地理院発行2万5千分の1地形図「冠山」を使用。

(下)熊河川地区より得られた放散虫化石の電子顕微鏡写真(スケールは0.1?)

化石名/産地/地点番号(F)/試料番号の順で記す。

A:Spumellaria gen. And sp. indet./熊河川/F423IH86101003

B:Nassellaria gen. And sp. indet. /熊河川/F423IH86101003

C:Canoptum sp. /熊河川/F423IH86101003

D:? Canoptum sp. /熊河川/F423IH86101003

E:? Canoptum sp. /熊河川/F423IH86101003

F:? Canoptum sp. /熊河川/F423IH86101003


**引用文献は割愛



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